母乳が不足したり、母親の就業など、何らかの理由で母乳以外の乳汁で赤ちゃんを育てることを人工栄養といいます。
現在ではほとんどが育児用ミルクによって行われています。
母乳栄養法が推進される中でも、現在の人工乳は、優れた品質であることを理解して、母乳、人工乳に関わらず、授乳そのものが母子の健やかな関係を築くことになるのです。
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牛乳の成分組成について
母乳のかわりに利用される人工乳には、用途や対象によって、様々な製品があり「育児用ミルク」として取り扱われています。
これらは牛乳を原材料としているので、まず、牛乳の栄養成分を理解しておきましょう。
牛乳と母乳の成分を比較すると、エネルギー、脂質、鉄の差はわずかですが、牛乳は母乳よりもタンパク質、ミネラル、ビタミンB1、ビタミンB2、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウムが多く、炭水化物(糖質)、ビタミンA、ビタミンC、ナイアシンは少なくなっています。
牛乳と母乳との栄養成分比較は以下の表の通りです。
母乳と牛乳、各種育児用ミルクの成分

母乳と牛乳、各種育児用ミルクの成分(100g中)
※人乳・牛乳は100g中の値、育児用ミルクは調乳100ml当たり(粉末100gではありません)
育児用ミルクの成分組成
牛乳は古くから母乳の替わりに用いられていましたが、成長の早い子牛に適した成分であるため、直接、乳児に飲ませると、消化不良を起こしやすく、死亡率が高いなど、多くの問題点がありました。
そのため牛乳に改良を加えて、できるだけ母乳に近い成分組成の人工乳にするため、長年、各メーカーでは研究が進められており、この先も続いていくでしょう。
育児用ミルクは調整粉乳といって「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」により定められた規格があります。
育児用ミルクは牛乳を原料に、栄養素別に以下のように加工調整が行われています。
たんぱく質
牛乳は母乳の約3倍ものたんぱく質があるのでその量を減らし、母乳の組成(乳清たんぱく質約53%、カゼイン約26%)に調整しています。
そしてカゼインの一部を消化吸収の良いラクトアルブミンに置きかえて、乳清たんぱく質中のβ-ラクトグロブリンを分解し、アレルゲン性を低減しています。
また調整時のたんぱく質濃度が1.7%程度になるよう減量されています。
アミノ酸組成も母乳に近づけ、赤ちゃんの神経伝達物質や目の網膜の発達に関与しているタウリンを添加し、シスチンを増量している、といった工夫がこらされています。
脂質
牛乳は「短鎖脂肪酸」という脂肪酸が多いので、乳脂肪の一部を植物油や魚油で置きかえ、多価不飽和脂肪酸を増やして消化吸収の良い母乳の脂肪酸組成に近づけています。
そのためリノール酸やα-リノレン酸の比率が高くなり、必須脂肪酸バランス(n-6系列:n-3系列)も母乳の比率に近づけられています。
脳や網膜の発達に関連するDHAを強化し、脂肪の代謝に必要なカルニチンやホルモンの前駆体としてコレステロールも強化されています。
またリン脂質も添加されています。
糖質(炭水化物)
牛乳の糖質は母乳よりも低いので、乳糖やガラクトースを増量して母乳組成に近づけています。
さらに腸内細菌叢を母乳に近づけるために、ビフィズス菌を増やす作用のあるオリゴ糖やラクツロースなどを加え、便性も改善されています。
ミネラル
牛乳中全体のミネラル総含量は、母乳の3倍以上も含まれているので、ミネラル全般の含量を減らしています。
カルシウム、リン、ナトリウム、カリウムのバランスも調整され、赤ちゃんの腎臓への負担を少なくし、吸収されやすくなっています。
また母乳には少ない鉄、亜鉛、銅も添加されています。
ビタミン
食事摂取基準に基づいて、各種ビタミンが適正に添加されています。
特にビタミンKの添加、またはビタミンKの含量が多い油脂を添加しているのです。
調製粉乳は多価不飽和脂肪酸が強化されていますが、これらの酸化により生じるフリーラジカルを消去するため、抗酸化作用のあるビタミンEも強化されています。
抗酸化物質としてβ-カロテンが添加されている製品もあります。
その他、乳児の感染抑制や発育に必要なラクトフェリンやヌクレオチドなども配合され、母乳に近づけるための様々な工夫がこらされています。
母乳、牛乳、各種育児用ミルクの栄養成分は前述の表をもう一度、ご覧くださいね。
⇒ 母乳と牛乳、各種育児用ミルクの成分
人工栄養による授乳の進め方
授乳は赤ちゃんを抱いて行うことが必須です。
哺乳瓶などの出が良すぎると、赤ちゃんが自ら乳汁を吸おうとする「吸啜(きゅうてつ)」不足となり、あごの発育不良を生じることがあります。
また摂取量が多くなってしまい、乳児肥満につながる可能性も出てきます。
授乳後は、摂取量を確認して、残乳は必ず捨てるようにしましょう。
赤ちゃんを抱いて、背中を軽く叩いて、必ずゲップさせることも重要です。