このコーナーでは赤ちゃんのカラダの発育と発達を応用栄養学や小児栄養学の観点などから、ご紹介しています。
少々難しい点もあるかもしれませんが、学問として確立された事柄を知っておくと、一般の育児書を読むうえでも理解が深まるでしょう。

はじめに

新生児とは生後0~4週間の赤ちゃんのことで、乳児は生後1ヶ月~1歳未満と区分されています。
一般にいう「発育」とは、成長と発達を総合した表現として使われています。

また「成長」とは、身長、体重、頭囲、胸囲などの伸長や増加など、形態的な変化を意味しています。

そして「発達」とは、身体の活動や言語能力、各臓器の働きが機能的に成熟していく過程を指していると考えておきましょう。

乳児期は、初期の体重減少を経て、哺乳量が増えていくに伴って、目覚ましい成長がみられるのが特徴ですね。
月齢が小さいほど発育はすさまじく、この時期は一生のうちで、最も成長速度が早く、1歳までに身長は1.5倍、体重は3倍に増えるのが特徴です。

身体の成長

乳幼児の成長と発達の基準値は、「2010年乳幼児身体発育値」を基準に、パーセンタイル値で示されています。
測定値の数値が小さいものから大きいものへと順にならべていき、全体を100とします。
そして下から何番目に当たるかを示したものをパーセンタイルといいます。
50パーセンタイル値は中央値であって、平均値ではないので注意しましょう。
母子健康手帳には、10と90パーセンタイル曲線が記載されているので、値がこの間であれば正常です。
しかし、多少のズレがあったとしても、身体発育曲線に沿って成長していれば特に問題はない、とされています。

出展:平成 22 年乳幼児身体発育調査報告書(概要) 資料1 – 厚生労働省

  • 身長
    出生時の身長は50cm程度ですが、生後1年で1.5倍、4年で2倍にも成長します。
    乳児期の身長の伸びは、体重に比べて栄養状態や疾病の影響を受けにくいと考えられています。
  • 体重
    出生時の体重は約3kgですが、生後3ヶ月頃には約2倍、1年で約3倍に増えます。
    体重は離乳食の摂取が適正かどうかの判断にも用いられます。
  • 頭囲
    出生時の頭囲は約33cmですが、生後3ヶ月頃には40cm、1歳で約45cmになります。
    頭囲の発育は頭蓋骨の発達を反映していて、脳疾患の目安としても用いられます。
  • 胸囲
    出生時の胸囲は約32cmですが、生後1年で45cmになります。
    胸囲の発達は栄養との関連が大きく、胸囲の増加は栄養状態の判断にも用いられます。

 

カラダの生理的な発達

乳児の食べ方に関係する、①摂食行動・摂食機能の発達、②消化機能の発達に焦点を当てて解説いたします。
わかりやすくいうと、赤ちゃん自らが食べようとする行動と、赤ちゃんのカラダでどのような機能や消化作業が行われているかということです。

①摂食行動・摂食機能の発達

哺乳反射による乳汁の吸飲

乳児が母乳を飲むのは哺乳反射(原始反射)といって、本能的に赤ちゃんがお腹が空いて母乳を飲みたいという原始的な行動になります。

  1. 探索反射(食べ物(母乳)をさがす)
  2. 捕捉反射(母乳をとらえる)
  3. 吸啜反射(母乳をすう)
  4. 嚥下反射(母乳をのむ)

の4つの反射があります。

また、乳児が母乳を飲む動きは「舌の蠕動(ぜんどう)様運動」と「吸引圧」この2つによるものと考えられています。
この2つをわかりやすくいうと、

  • 舌の蠕動(ぜんどう)様運動
    舌先を歯槽の前に出して、舌の縁は乳首をくるんで口蓋に押し付けて密着させる行動です。この状態で舌が蠕動(ぜんどう)運動して乳汁を押し出すのです。
  • 吸引圧:ぜんどう運動が奥までいったら、舌を下げて口蓋との間に自然と圧力がかかって、飲み込みます。

口腔内の形状の発達

成長に伴って、乳汁を吸いこんでいっている穴のようなものが、だんだんと小さくなっていきます。
そうすると赤ちゃん特有の副歯槽提という部分がなくなって口蓋が広くなります。
こうして、離乳食に向かって、固形状のものが食べられるようになるのです。

哺乳反射の消失

個人差はありますが、5~7ヶ月頃になると乳汁のみを探し求めたり、乳汁のみしか受け付けない状態が、だんだんとなくなっていきます。
この「乳汁しか飲みたくない」という哺乳反射が弱まっていくことが離乳開始のサインといえます。
生後4ヶ月ぐらいまでの赤ちゃんは母乳や市販の育児用ミルクから栄養を摂っていますが、この母乳のみしか受け付けず、乳汁しか飲み込めない状態が続いてしまうと、離乳食で徐々に与えていく固形物を口から出してしまう可能性が出てくるのです。
そのため、4 ヶ月以前の離乳開始は好ましくなく、赤ちゃんにとっても不快だということを理解しておきましょう。

離乳食の開始と摂食機能(咀しゃく)の発達

赤ちゃんの摂食機能の発達は、

  • 哺乳機能(原始反射)
  • 中枢神経の発達
  • 摂食機能(随意運動:脳の意志によって動く)
  • 捕食(唇で食べ物を捉える)
  • 咀しゃく

の順で進んでいきます。

摂食機能の発達に合わせて、その時期にあった調理形態のものを与えることで、咀しゃく、すなわち食べ物をかんで飲み込む力がそなわっていきます。

また、第1乳臼歯が生える(12~18ヶ月頃)ことにより固形のものをつぶすことができます。
そうすると離乳の完了となります。

「かまない・かめない子ども」が増えている現状もありますが、大人が赤ちゃんや子どもの発達の道筋を把握しておき、どこでつまずいたかを知ることも大切です。

以下に各月齢による摂食機能の発達をまとめました。

②消化機能の発達

乳児が摂取した母乳や育児ミルク、離乳食は消化管内で消化酵素の働きによって、吸収されやすい小さな分子にぶんかいされていきます。
その過程を消化というのです。
消化器官には、口腔、胃、腸があり、それぞれ消化液が分泌されています。

  • 唾液
    新生児の口腔内では、唾液が少なく、アミラーゼの活性も低い状態ですが、離乳食がはじまり、食品からのデンプン質を摂取するようになるとアミラーゼの分泌量が増えてきます。
  • 胃内消化
    胃酸分泌の点では、生後24時間で確立しますが、反応性が低いので、新生児のタンパク質分解能力は低く、4歳ごろに成人レベルとなります。
    胃液中には、ペプシン、凝乳酵素のレンニン、リパーゼ、塩酸などが含まれています。
  • 小腸内消化・吸収
    出生後は、小腸の機能がまだ未発達ですが、すぐに胎便の排泄や消化酵素の分泌などが機能しはじめます。
  • 大腸内消化・吸収
    • 成人と同様、乳児期の大腸も水分吸収や糞便形成の機能が備わっている。
    • ぜんどう運動は成人とほぼ同じように機能しています。
    • 乳酸菌や大腸菌なども存在し、細菌叢を構成しています。
    • 大腸では水分や電解質が吸収されており、小腸で吸収されなかった内容物は腸内細菌により発酵や腐敗作用を受け、糞便を形成しています。
    • 腸内細菌はビタミンB群やビタミンKなど人体に必要なビタミンの合成も行っています。
    • 赤ちゃんの糞便も、吸収されなかった食物残渣や腸粘膜の脱落細胞、消化液、腸内細菌などからできている。
    • 糞便の性質は母乳栄養児(母乳)と人工栄養児(育児用ミルク)では異なっています。
    • 近年、母乳の成分と類似した育児用ミルクも製品化されており、人工栄養児の便も母乳栄養児の便に近づいてきている。
    • 胆道閉鎖症の場合は胆汁色素が分泌されないため白色便になるのでサインとして見逃さないようにしましょう。